検閲前夜のひらログ

おひまつぶしになれば、さいわいです。

城のスケッチ

 きわめて酒に弱い私が、擬似の酩酊感を得ようとして試みたのは、迷子になることだった。私はインターチェンジ裏のホテル街にいた。読者の感興をそそるような事件はなにもない。その散歩のはじめからおわりまで、私はひとりだった。記憶を頼りに同じ道を辿ることはできるだろうが、そのつもりも、やはりない。静まりかえった夜に出歩くこと自体、しばらくは控えようと思う。危ない目に遭ったのではないが、ただ、そらおそろしかった。つまり酔っぱらいごっこは挫折に終わった。

 その区画は、ラブホテルのほかには、住宅と物流センターとで構成されていた。平日の21時頃、動くものは、まばらなトラックと家路を急ぐ人々だけだ。門という門は閉ざされている。街灯は乏しい。ホテルだけが目をひらき、異様な輝きを放っている。豊かな光と水をたたえた、天国だの楽園だのと名づけられた小さな城塞は、私をぎらぎらと威嚇するようだった。隣接する、かんぺきに閑静な住宅街にも、私は歓迎されなかった。家々がそのなかに暮らすものを守りあたためているために、よそものの目に冷たく映るのは当然のことだろう。それは「よい夫婦」が博愛から遠いのに似ている。その夜、私は愛と愛のすきまでひとりだった。